大判例

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東京高等裁判所 平成9年(ネ)2934号 判決

以上の事実によると、越川まさは、昭和六三年一月二三日から平成三年六月七日まで被控訴人の後見人であり、被控訴人を代理して後見事務を遂行し得る地位にあったが、本件各貸付の際には既に後見が終了し成人に達した被控訴人を代理できる立場にはなかったから、越川まさが被控訴人を代理して控訴人らとの間で本件各締結した行為はいずれも無権代理に当たる。

控訴人らは、越川まさの表見代理を主張しているところ、表見代理の基本となる代理権は任意代理権に限られないから、法定代理人である後見人が権限消滅後に無権代理行為をした場合であっても、所定の要件を充足するときは表見代理の適用を認める余地を否定できない。

しかし、前記のとおり越川まさは被控訴人の後見人として本件各貸付等の契約をしたわけではなく、控訴人ら(控訴人大網の場合は代理人酒井)も同女を被控訴人の後見人と信じて契約に応じたのではない。また後見の制度は無能力者を保護するための制度であるから、無能力者を代理する後見人と取引をする者は、取引に当たり本人が無能力であること、後見人選任の事実及び本人との利益相反の有無を調査すべきであり、これを怠った結果当該後見人の権限消滅の事実を知らずに取引をしたときは、この事実を知らなかった点において過失があるといわなければならない。したがって、控訴人らが、越川まさの後見人としての法定代理権を基本代理権として民法一一〇条及び一一二条の表見代理を主張するのであれば、右いずれの点からしても控訴人ら(控訴人大網の場合は代理人酒井)が被控訴人に対する確認その他の調査を怠り越川まさの法定代理権の消滅(すなわち被控訴人の成人)の事実を知らなかった点において過失があるというべきであり、控訴人らの右主張は失当である。

結局、控訴人らは、越川まさが被控訴人の母親であり、その上被控訴人の所有地の登記済権利証や印鑑登録証明書を持参していたこと等から越川まさに代理権があると信じたにすぎない。しかし、本件各貸付時には被控訴人は成人に達していたのであるから、越川まさが被控訴人の母親であるとしても、そのことから当然に被控訴人の代理人になるわけではなく、越川まさが被控訴人の代理行為をする場合には被控訴人から代理権を授与される必要がある。また、一般的に親が子の実印や登記済権利証を持ち出すことは他人以上に容易であり、親が子の利益に反する行為をすることも事例にこと欠かないのであるから、親が子を代理して土地の売買、担保設定等重要な行為をする場合、その取引の相手方は、取引の目的及び本人の意思の確認等について特に慎重な対応をすべきであり、単に親が子の実印や登記済権利証を所持しているというだけで親に子を代理する権限があると信じるのは軽率といわなければならない。したがって、必要な調査確認をせず、単に母親である越川まさが被控訴人の所有地の登記済権利証及び印鑑登録証明書を持参し自ら任されている旨説明したこと及び以前に越川まさが被控訴人を代理したことを知っていた等の前記事実をもって越川まさに代理権があるものと考えて本件各貸付等をした控訴人ら(控訴人大網の場合は代理人酒井)は、取引に当たり必要な調査を怠った過失があり、越川まさの代理権を信ずべき正当な事由があるとはいえない。控訴人らの表見代理の主張は失当である。

(新村正人 岡久幸治 宮岡章)

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